上記の財団法人が年4回発行していた広報誌の表紙です。
毎回特集記事で紹介される土地をモチーフとしていますが、
ただその土地をイラスト化しても面白くないので「百年後の世界」として表現してあります。
おまけにイラストに合わせたショートストーリーも書かせてもらったりと、かなり自由度の高いお仕事でした。
以下は当時裏表紙に掲載されたショートストーリーの全文です。
「百年後のニッポン No.007 SOLT TOWER (広島県 竹原)」
「何か物足りない. . . 。」
500階もの高さを誇る高層ビルの最上階で浅野社長は独りつぶやいた。
ここは広島県竹原市。江戸時代から塩の生産地として日本中に知られた土地である。
今から100年以上も昔の唱和30年代、塩は国の管理下に置かれこの竹原は衰退した。
しかし20世紀末から21世紀初頭にかけてソルトビッグバンとも言うべき経済改革が成され
かつてのような自由な塩作りが出来るようになった。
その過当競争を生き抜きいまや世界の製塩業の頂上に君臨するまでになったのが浅野の経営するこの会社であった。
その本社は他を圧倒する荘厳さからソルトタワーと呼ばれ畏怖されていた。
この全てを手に入れたような状況下で浅野は物足りなさを感じていたのだ。
「社長、お呼びでしょうか。」
浅野の最も信頼のおける部下、大石が社長室に入ってきた。
浅野は彼にテーブルにつくよう勧めると自らコーヒーを2人分いれて彼に手渡しながらこう言った。
「大石君、今日は副社長としてでなく友人として私の頼みを聞いてほしい。」
「. . . と、言いますと?」
「率直に言うが新しい調味料を開発してもらいたいのだ。つまり、味気ない生活を味わい深くする生活の調味料だ。
. . . 私がこの会社を興してから早50年。私は自分の全てを捧げてここまで昇り詰めた。
甘い新婚生活も瞬く間に過ぎ、苦み走った渋い壮年期も昔の話し、気が付けば旨みも全て出し切った出枯らしのしわしわの年寄りだ。
こんな私をもう一度いきいきとさせてくれる調味料を開発してくれ。」
大石はしばらくの間、外の景色を眺めていたがやがて口を開けた。
「新しい調味料を開発する必要はありません。それはもう社長自らが持っておられます。」
「何だって?それは何だね。」
「塩です。いえ、厳密に言うと汗です。社長はここでじっとしているのが耐えられないのです。
現場一筋で頑張ってこられた方にはよくあることです。どうです?私に一つ考えがあるのですが. . . 。」
その次の日の朝、社長の姿は最上階にはなかった。
照りつける太陽のした、昔ながらの塩田で額に汗して働く浅野がそこにいた。
彼の顔は麦わら帽に隠れて確認できないがきっと汗をにじませながら充実した表情をしていることだろう。