まちづくりN0.20 1997年 財団法人区画整理促進機構 刊

上記の財団法人が年4回発行していた広報誌の表紙です。
毎回特集記事で紹介される土地をモチーフとしていますが、
ただその土地をイラスト化しても面白くないので「百年後の世界」として表現してあります。
おまけにイラストに合わせたショートストーリーも書かせてもらったりと、かなり自由度の高いお仕事でした。
以下は当時裏表紙に掲載されたショートストーリーの全文です。

「百年後のニッポン No.004 HIRATO(長崎県 平戸)」
九州、長崎あたりには大小さまざまな島が浮かんでいる。
この辺りの潮の流れは複雑、また思わぬところに岩などがありたびたび船は座礁、時には水没した。
そこで航海のエキスパートとも言える人々、松浦水軍が活躍することとなった。
彼らは自ら水先案内人を買って出、航海の安全を保証し、その見返りとして積み荷の何割かを報酬として受け取ったという。
しかし、21世紀の今日、松浦水軍が居たらこの辺りを無事案内し、見事報酬を受け取ることができるだろうか。
現在ここには自然にできた島よりも多くの人工の島が点在している。しかもそれらは日々増え続けているのだ。
もちろん船が事故を起こす確率は殆ど無い。どの船も空を飛ぶことができるからだ。
船が波間に浮かぶのは停泊している時だけ、言い換えれば船の大きさ分の水たまりさえあれば事は足りてしまう訳である。
そんな数ある人工島の一つ「新平戸島」の周りに、世界中から船が続々と集まってきている。
彼らは貿易が目的ではない。お目当てはこの島のシンボルである、巨大な桜の木なのだ。
最新の遺伝子工学をもって創られたこの桜はいまや世界的な観光スポットとなっている。
そしてお花見という言葉もOHANAMIとして国際的に通用している。
花を見ながら旨い酒を飲むこの風習を嫌がる国などあるはずもなかったので
世界がひとつとなった今、この光景は当然といえば当然であった。
どうやら21世紀はものではなく文化を貿易する時代となったようである。