上記の財団法人が年4回発行していた広報誌の表紙です。
毎回特集記事で紹介される土地をモチーフとしていますが、
ただその土地をイラスト化しても面白くないので「百年後の世界」として表現してあります。
おまけにイラストに合わせたショートストーリーも書かせてもらったりと、かなり自由度の高いお仕事でした。
以下は当時裏表紙に掲載されたショートストーリーの全文です。
「百年後のニッポン No.003 HAKODATE (北海道 函館)」
21世紀、冬の夜。
北海道函館市に大きな星が一つあった。
幕末に軍事要塞として建設された五稜郭がそれである。
現在、ここは巨大浮遊都市として函館の夜空で一際明るく輝く星に生まれ変わっていた。
ここでは学者たちが日常の喧騒にわずらわされることなくそれぞれ各自の研究に取り組んでいた。
しかし、12月も後半に入ると彼らの生活はにわかに慌ただしくなる。
あるものは髭を伸ばし、またあるものは白い袋を縫い始め、またまたあるものは赤いユニフォームを洋服ダンスの奥から引っ張り出す。
そう、彼らはサンタクロースとなって世界中の人々に贈り物を届けるのであり、それが学者たちの本当の姿であった。
だが今年は違った。
夢を見なくなった世界に対して、はたしてこれが必要な行為なのか一部から疑問の声が出たからだ。
今夜も中央本部ではサンタの存続について議論が続いていた。
「今年のプレゼントの総数は幾らになったかね。」
「160億3542万6785です。」
「去年より15パーセントの増加か。」
「しかし余りにも数が多いね。受給対象者を未成年に限っては?」
「それよりもいっそ全部止めてしまったらどうだろうか。」
「私もそう思う。どれだけの人々が我々を待っているのか大いに疑問だ。」
「そんなことはないよ。きっと全ての人が我々を信じてくれている筈だ。」
「しかし. . . 」
と、その時、今では100億ドルに値上がった函館の夜景から懐かしい歌が窓を通して聞こえてきた。
それは150年以上も前に制作されたアニメーション映画の主題歌だった。
そこで会議は終了した。
今年も地球上の全ての人々にプレゼントを贈ることが満場一致で決定されたからだ。
何故なら彼らはその映画と歌を知っていたのである。
映画の名はピノキオ、そして歌の名は「星に願いを」であることを. . . 。